Japanische Klassiker mit Furigana
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パンドラのはこ
パンドラの匣
Lesen Sie パンドラの匣 (パンドラのはこ) von Dazai Osamu (太宰 治) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 192.644 Zeichen · 386 Bildschirme
か。ああ、伸びんと欲するものは、なぜ屈しなければならぬのか!
市川菊松。さびしいねえ。
十月一日。日曜日。
秋晴れ。初舞台。僕は舞台で、提灯を持ってしゃがんでいる。観客席は、おそろしく暗い深い沼だ。観客の顔は何も見えない。深く蒼く、朦朧と動いている。いくら眼を見はっても、深く蒼く、朦朧としている。もの音ひとつ聞えない。しいんとしている。観客席には、誰もいないのではないかと思った。なまぬるく、深く大きい沼。気味が悪い。吸い込まれて行きそうだった。気が遠くなって来た。吐き気をもよおして来た。
役をすまして、ぼんやり楽屋へ帰って来ると、兄さんと木島さんが楽屋に来ていた。うれしかった。兄さんに武者振りつきたかった。
「すぐわかりました。進さんだという事が、すぐにわかりました。どんな扮装をしていても、やっぱりわかるものですね。」木島さんは、ひどく興奮して言っている。「僕が一ばんさきに、見つけたのです。すぐわかりました。」同じ事ばかり言っている。
鈴岡さん一家も、一等席に来ているそうだ。チョッピリ叔母さんも、お弟子を五人連れて、鶉で頑張っているそうだ。兄さんからそれを聞いて、僕は泣きべそをかいた。