Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
だが、彼女はそういう理由をつかむ気もなく、ただぼんやりと新しい慎吾のすがたを、知識を、地位を、描いていた。
「ところで、お芳」
「え」
ハッとして――「何ですか」
「何しに来たんだい、今日は」
「あ、忘れていた。あの……いつか持って来て貸して上げたお父様の書物を、いちど戻して貰わないと、私が困ることがあるんですよ」
「どうして」
「松代の佐久間先生へ、どうしても、貸さなければならないといって、お父様が出しておけと私にいうのでね」
「嘘だろう。ははあ分った。おめえはあの次席家老のせがれに突っつかれて、書物を取り上げれや、おれがこんどの仕事に腰をつくだろうと、相談の上で、取りに来たんだな」
「ま、邪推ぶかい」
「そうに違えねえ。おらあ何でも知っているんだ。ヘン、こう見えても七之助は地獄耳だよ」
「おまえは、きょうはどうかしているんでしょう。また機嫌のよい時に話しますから、書物だけ戻して貰いますよ」
雑多な薬液の瓶が載っている棚の隅に、見覚えのある父の古書が重ねてあるので、取って帰ろうとすると、
「待てッ」
と七は、いきなり立って、
「うぬ、心変りをしやがったな」
足を上げるがはやいか、お芳の細腰を狙って、土間の下へ蹴落した。