Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
輪廻篇
夜ごと、一人の男が忍んでくる。
それが絵描座の兆二郎であることはいうまでもないが、その部屋へ入るとやがて、兆二郎の姿はどこかへ消えてしまう。そして、戸棚の上の天井板が黒い口を開くのである。
夜ごと、天井へはい上がった兆二郎は、屋根裏を伝うと、ソッと久米一の密室の上へかかり、そこに、苦心をして僅かに覗きうるだけの穴をあけた。
棗はその間、ほかの弟子が来ぬように見張っていた。兆二郎は天井の穴に目をつけて、息をのみながら久米一の仕事を凝視する。
と――やがての夜から久米一のひとりごとがはじまったのである。見ただけではわからぬわざの謎、そこへくると説くのである。ああ、師匠は何もかも知っているのだ……色絵の秘法と同時に娘の棗をもゆるしてくれる心であったと兆二郎が、真っ黒な屋根裏で両手を合せたことも幾たびか。
輪廻篇
窯焚きの百助は、無論あのまま黙ってはいない。なお、執念深く、兆二郎の疑点をいくつも探り、佐賀の城下へ出て密告した。
ところが、鍋島家の役筋の方では、訴えられて非常に弱った。殊に、刈屋頼母は極力それを揉み消し、百助と久米一との和解に努めた。
久米一の細工邸から、秘法盗みの罪人を出せば、その師匠の彼をも、同罪にしなければならない困難が一つ。