Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
暁暗・うつつ鐘
手と、膝で、廊下を歩く。
どの部屋も、冷やッこい。寝息もなければ灯影もなかった。――雲霧は、闇に屈みこんで、耳をすました。
どこかで、子のむずかる声でも聞えないか。乳の香でも漂っていないか。また彼女のかすかな寝息でも――と。
暁暗・うつつ鐘
チャラ、チャラ……
また、ざらざらと、金の音だ。どこかで、金を数えている微かな音である。
雲霧の耳が、ぴくっと欹った。土蔵前の障子に、薄暗い燈芯がゆれている。そっとのぞいてみると、鼈甲ぶちの眼鏡をかけた権内が、十畳の座敷いっぱいに金をならべて、その真ん中に、腕拱みをしているのだった。
小判は小判で耳をそろえ、一朱金は一朱金で並べ、二分銀は二分銀で積み、鍋銭は鍋銭で、盛り上げてある。
「さあて、少し、算盤があわねえぞ」
独り語ちを洩しながら、権内は、両わきの帳面と、算盤の珠とを見くらべて、
「去年は、たっぷり、二割七分に廻ったものが、今年ゃ、一割五分にも足らぬ。――こんなことじゃ大変だ。わしの年が今、五十八、もう二十年と見てこの金を、十万両とするにゃ、一割五分じゃ難しいわい」
鋳き立ての小判を一枚、指に挟んで、
「だがいい色だな。