Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
七
旦那、どうかお慈悲に、こッそり逃がしてやっておくんなさい」
「ウム。許してやろう」
「有難う存じます。じゃ旦那も、充分気をつけないと」
「が……待て」
「へい」
「どう逃げる」
「猿橋から生神場を通って、下鳥沢へ下ろうかと思います。で、ひとまず江戸の方へでも」
「道案内をたのむ。――拙者今夜ここを立つ」
「え、旦那も」
「生神場の辻堂で待ち合していてくれ。それに就いては、持物も貴様に預けておくから、落さぬように頼んでおく」
「旦那……」と、仙吉は唾を嚥んだような声で――「こりゃ、金と、笛ですね」
「ウム、金は、二百両を少しくずしてある。笛は大切、くれぐれ落さぬように頼む。どっちも少し邪魔になるから、貴様の肌に抱きしめてな」
「ようがす。じゃ、いずれまた生神場で」
「なんなら、それを持ったまま、方角をちがえてさしつかえはない」
「ぞッとします、旦那の金じゃ」
「寝込むなよ、辻堂で」
「大丈夫、あれから鏡坂へ見えてくるお姿を、目を瞠って、お待ちしております」
「そうしてくれ。……だがな、ことによると、そこへ行く時には、二人づれになっているかもわからない……」
七
外の板の間は氷のようだが、障子の内は、炬燵の火と酒のにおいに、仄明るい朱骨の丸行燈の灯が照って、そこにいるお稲の身のうごきにも春の晩のような温い空気が部屋にうごく。