Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
四
大きな宿題が――苦労が――胸にあるらしい。そういえば、才識に経世に、米沢の宝といわれたこの人にも、めっきりと老けてきた影がみえる。――いかに、事の内容が容易でないかを、その眉が、語っている。何か、尠なくもそれは、主家上杉藩の浮沈にもかかわる程な。
四
で、実は。
この三月でいい出府を、彼は、二月も繰上げて急に、国元の米沢から上ってきたわけだった。問題の重点は、世間からも注意されている吉良上野介の身についてである。いうまでもなく、上野介の夫人は、上杉家の当主綱憲の母にあたる――吉良家と上杉、これは、断っても断れない関係のものである。
上杉家では――いや藩の輿論よりは、太守の綱憲自身が、しきりと聞える、赤穂浪士たちの潜行的な噂に対して、
(もし、父を討たれては)
と、躍起となった。
(そして上杉家の名折れ、謙信以来の武門の恥、どうかせねば)
と、江戸家老の沢根伊兵衛に謀って、
(飯倉か――桜田か――いや白金の下屋敷が、最も、堅固)
と本所から上野介の身を夜陰、そこに移して、秘密の上にも、秘密を守って、警戒していた。
(大事! 社稷の危機)
と、兵部は、その、余りにも無謀な――浪士と上杉家との対立を敢てする策に――驚いて国元から駈けつけるとすぐ、綱憲に、その失計を説きたてた。