Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
紅梅から百両借りる約束をしたろう」
「親方さん、まだ病人には、聞かせてないんですから……」
と拝むように声を制す手へ仁吉は、五両の封金をにぎらせて、
「旦那からだ、いいかい」
「あら、いけません、こんなものを」
「取っておきねえな、折角、支度金にくれたものを」
「いけません、いけません」
「とにかく預けておく」
と、仁吉はもう、下駄をはいていた。
「――あれ、親方さん」
と、お喜乃は、あわてて、金を持って外へ出て来た。どぶ板を踏み鳴らして、往来まで追い駈けて行った。
「甘い手だ」
と、治郎吉は、暗がりから見送って、すぐその眼を、竹窓のあいだから、じっと、家の中へしのび入れた。
病人は、干し鰈のように平たくなって、昏睡していた。枕元には、煎じ薬も見えない。うす寒い空気と壁があるだけで、台所にも、一粒の米粒すらなさそうである。
豆絞りの手拭から、ころりと、百両包を二つ出して、竹窓のあいだから、手をさし入れて、小壁の下に置いた。そして治郎吉は、路地を出て来た。
「……あっ、ごめんなさいまし」
暗かった。
それに、お喜乃は、うろたえてもいたし……。
どんと、治郎吉の胸にぶつかった弾みに、手に持っていた封金を溝板のうえに落した。