Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
社稷か父子の情かである。一人の上野介か、上杉家全藩の生命かである。
綱憲も、その非を覚って、兵部の諫めどおり、また上野介を、本所の彼自身の邸に戻した。だが、兵部の心は、それだけに、負担を感じている。公然とはできない吉良邸の警戒に、赤穂の浪士たちの行動が、潜行的になればなる程、水も洩れてはならないのである。
何よりも、彼が第一に、
(さて、人間はいないものだ)
とつくづく、当惑したのは、上野介の身辺を警戒するにたる腕のしっかりした人物だった。
(剣客などは、いくらでも)
と、ふだんは考えられる江戸にも、さてとなって、求めると、実に、その人がない。
町道場で、相当に、認められている人物でも、ひそかに交渉させてみると、
(吉良の屋敷では)
と、断るのが、多いし、上杉の藩士を詰めさせては、赤穂との対立になるし、素姓の知れない人間は、敵方の諜者を入れこむ惧れがある。
今――およそ兵部の眼鏡で、八、九名の浪人を抱えて、付け人にさせてはあるが、とても、まだ安心はできない。赤穂の浪士たちに対しては、物の数でない。
で――兵部は、そういう点で、ふと、清水一角の名を、思い出した事があったし、また、米沢の国元にも、藩士でさえなければ、眼ぼしいのが、二、三名はいるが……などと炬燵ぶとんへ、横にした頭の中で、船の揺れを感じながら眼を