Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
こっちの身を破らせておいて、女は、後じゃ恨みつらみ……。それを思うと、酒は可愛い。おれはこれから宗旨をかえて、生涯酒を無宿の女房ときめる。……へッ、へッ、へ、へ。よくもここまで俺も……は、は、は」
「何が……何がおかしいのですえ。……じゃ清水さんは、初めから私を」
「あたりめえだろう。てめえも、武家の出戻りでありながら、ただ、行きずりの一角に、すぐ手を出せば乗るなんざ、女庭訓を外れている。身から出た錆」
「な、なんですッ」
「おっ――あ、あぶねえ、食いつくのか」
「口惜しいっ……。く、口惜しいっ……」
「泣け泣け。肩なら、いつまででも貸してやる。……おお、何か落ちた、髪の物が」
お八重は、雨の中へ、手をのばして、
「あ……姉さんの罰」
「姉さん?」
「――堪忍して、堪忍して」
と、拾った小さい物を、抱きしめた。
ぎょっと、彼女の手へ、一角は――酒と血とを、交ぜたような、どろんとした眼を、すえて、
「何だ? ……それは」
「釵」
「畜生ッ」
雨が――きゃあッ――という悲鳴を吹き攫ッた。
小脇差で、たった一打ちに、お八重の首を、ぶらんと、斬って伏せた一角は、どっどと、雷にあわせて鳴る大谷川の激潭のふちを、蹌々と――踉々と――刃の血を、雨に、洗わせながら歩いて行く。