Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
上野介の首なんか、千坂殿だって、いつかはと、覚悟はしている。ただ……上杉家の立場が……ただそれだけだ。討て、はやく、人の来ないうちに」
「もう、そんな私怨は、千坂殿のまえで忘れた約束だ。俺は、斬らん。――二人で、もう一度、赤穂の浪人の中へはいって、斬り死にをしよう。なあ、一角」
「いけねえ。……それでは、俺の気がすまない。この雪の夜を、こんな、誂え向きな晩を、さばさば……と」
彼は、雪をつかんで、唇に入れた。
「――赤穂の敵は、立派だなあ。戦いながら、惚々した。武士はやっぱり武士に、成り切らなくっちゃ、嘘なんだ。丈八……貴様あ、立派な武士になれ」
「ばかなっ、俺も、今夜は死ぬ身――」
「よせ。吉良の庭に、犬死するな。庭ざかいの塀を越えて、上杉家へ、駈け込め。――千坂殿が、きっと来ている。千坂殿は、きっと、貴様の生きて帰ってきたのを欣ぶ!」
丈八郎は、初めて、一角の眼に、涙というものを見た。口へ押しこんだ、雪をかみながら、濡れた睫毛を、しばたたくのである。
「……さっ、斬れ、おいっ。頼むから、きれいに、斬ってくれ。年三十にならねえうちに、生きるに持てあましたこの首を」