Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
「ふム。そうか」
雲霧は、ちょっと、悦しかった。音もなく牢を飛び出ると、牢路地を指さして、
「蔵六、そこだけが、気になる。見張っていてくれ」
「はい」
と、彼が、そこへ首を出している間に、霰でも走るような軽い音が、屋根に消えた――ぽうんと、闇の外へ、雲霧は、もう飛び降りていた。
ぱさっと、途中で、お仕着の裾が、何かに引っかかった。胡粉より白いものが点々と、月代や、肩や、耳の裏に、こびりつく。
「つまらぬところに、梅が咲いてやがる。もちッと、気のきいたところへ、咲きゃあいいに」
そこは、凸凹な湿地だ。枯れ蘆と、低い団栗の木、猫柳、野梅が二、三本。
高い、塀を廻って、彼は深夜の町へ出た。風みたいに、軒下を走ると、すぐ田所町の何丁目か――そこをまた、路地へ入って、土蔵と、勝手口と、庭口のくッついた商家の裏手へ立って、
「こんばんは――」
と、戸へ耳をつける。
たった一声で、すっと、中から開いた。表は質屋、裏の客は、緑林から運んでくるのを受けている故買い。出て来たのが主人で、でっぷりと肥えた五十男である。佐渡屋幸吉を略して、佐渡幸といえば通っていた。
「毎晩、どうも」