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Japanische Klassiker mit Furigana

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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme

Aozora Bunko

同時に彼は、水底をゆく魚のように、真ッ青な波の下へもぐりこみ、小柄な彼女の体を両腕に抱きしめていた。娘はもがきもだえ、のしかかる暴力へ可憐な爪をたてて拒んだが、それは雲霧の慾情をなお火とさせるに過ぎなかった。まるで野獣が鶏でも貪るような彼だった。(殺すぞ――声を出すと)

波打つ八畳蚊帳の下に、泣くとも叫ぶともつかない声も圧し伏せられて、蕾の花は、狂児のあやしい戯れにかき散らされた。そして若い彼と異性の肌から醗酵する、汗の香、涙の香、黒髪の香が……燃え抜けた飽慾のあとの肉体にあまい気だるさとなって、いつまでもうっとりと、彼女の泣きぬれた顔が見まもられていた。

夏の夜は短かった。

「――罪な真似を」と、雲霧は、今考えても、生々しい慚愧を感ずる。思い出す度に、いい気持ではなかった。気にかかるので、後で探ると、娘は、それから十月目に、父なし子を産んで土蔵部屋に産後を病んでいるという近所の者の噂だった。

自分の子。――彼は不思議な念に衝たれた。恐ろしい気もした。その子は、どうなるだろう。その母は?

(俺は、緑林の巨人――)

とさえ思い込んで、今ではその信念が、人格的にさえなりかかっている雲霧の心に忘れ得ぬ悪行の極印を残してるのはその一事だった。