Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
僅かな間に、久米一の痩せ衰えたことは非常なものであった。糸を抜かれた蛾よりも婆娑とした姿に変って、大言壮語も吐かず弱々と佐賀の城下へ曳かれて行った。
しかし、久米一より大事な罪人、絵描座の兆二郎と、娘の棗の姿は、捕手が入った時すでに、影も形も見えなくなっていた。無論、逃げたのは山越えとみて、山目付鈴木杢之進が手配したが、遂に、網の目にかからない。
夕月のかかる前から、黒髪山の山ふところ、御用窯に火が入った、まっ黒な煙か、峡谷から押し揚った。
そこに働いているのは窯焚きの百助。
彼は溜飲をさげて、得意に盈ちていた。
「ざまア見やがれ!」
ひとりで凱歌を奏していた。
しかし、彼の鬱憤は、久米一の細工屋敷が没落し、彼が城下で磔になるのをみても、まだまだ腹が癒えなかった。彼奴が死んでも殺されても、まだ生きているもののあるのを知っている。
何かといえば、久米一のわざの魂。彼が色鍋島に残したかがやかしい名声だ。
「よウし……畜生」
百助は、その無形な名声をも殺す、恐ろしい一策を思いついた。
今、この御用窯の中には炎々たる高熱の火が入っている。そこには、久米一が、一世一代の製作、増長天王が彼奴の命を吹ッ込まれて、世に生れ出ようとする火炉の胎養をうけているのだ。