Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
「一方の方は父の上役ゆえ、きびしい御催促もなさいませんが、何せい、家中ではとかくな評判が立ってしまい、また、元贇の安南絵の壺も、前に一度殿様のお耳に入れてあってぜひ見たいという仰せのあった品物ゆえ、今さら、養母がそれを持たずに手ぶらでは帰れぬ事になっております」
「ふーむ、成程、厄介な筋だな。それじゃお前さんも、安閑と跡目願いも出されまい」
「まったく、私も、実に困ってしまいました。実の母なら気心も分りましょうが、何しろ、十二、三の時に、たった二年程しか、一緒にいなかった養母なんで」
「家中の評判っていうのは、どんな事を言い立てているのか、お前さんも小耳に挟んでいなさるだろうが」
「それが……」と、左次郎は急に口籠って、赤らめた顔を俯向けながら、
「お咲殿は帰るわけはない、以前から、仲間の一平とは主従以上に親しかったから――という風に申します。父の病体も永年のことゆえ、そんな噂が立つのも道理かと思われます」
「ウム、ウム、大きに」
と、銅鑼亀親方の世事に馴れた考えも、それと一致したものか、二つばかり頷いた。
「で、左次さんが、国元を出て来たのは」
「何でも、この江戸表にいるという噂があるもんですから」