Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
どうひょう
道標
宮本 百合子
Lesen Sie 道標 (どうひょう) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 846.457 Zeichen · 1672 Bildschirme
川辺みさ子がウィーンへ行ってから半年たつかたたない頃だった。川辺みさ子は世界を征服すると大した勢で出かけたが、案外なんだそうだ、某というコンセルバトワールの教授に、これから三四年みっしり稽古したら月光の曲ぐらいは一人前にひけるようになるだろうと云われた。そういう噂が伸子の耳にはいった。川辺みさ子の運指法がめちゃめちゃなんだそうだ、そういう話もつたわった。そういうひとこと、ひとことは伸子の全存在の内部へしたたりおちた。何も云わず伸子は自分の若いしなやかさを失っていない十本の指を目の前にひろげて長いあいだそれを眺めた。ピアノのキイの上においた両手の、手くびをさげて、指をあげて! と命じた川辺みさ子の声を思いおこしながら。
下宿の窓から鋪道へ身を投げて川辺みさ子がウィーンで自殺した。そのニュースが新聞へ出たのは、それから程ない時だった。伸子は、頬のひきつったような表情でその新聞を見つめ何にも云わず、息を吸いこんだ。吸いこんだその一つの息がはきどころないように胸がつまった。伸子は誰に向っても、がんこに口をつぐみつづけた。
数ヵ月たって川辺みさ子の遺骨が故国へ送り届けられた。