Japanische Klassiker mit Furigana
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しんせい
新生
島崎 藤村
Lesen Sie 新生 (しんせい) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 334.815 Zeichen · 663 Bildschirme
彼は巴里の狭苦しい下宿に身を置いたよりも、その田舎家の二階の部屋の方に反って欧羅巴の旅らしい心持をしみじみと味うことが出来た。彼は親しみのある宿屋の燈火の前に漸くのことで自分を見つけた旅人のような気もしていた。飾りとても無い部屋で、唯一つある窓のところへ行けば朝晩の露に濡れる葡萄の葉が見られ、寝台の置いてある部屋の隅へ行けば枕頭に掛る黒い木製の十字架が見られ、暖炉の前に行けば幼い基督を抱いた聖母の画像が羅馬旧教の国らしく壁の上を飾っているぐらいに過ぎなかった。しかし彼はその部屋に居る心を移して、あの澱み果てた生活から身を起して来た東京浅草の以前の書斎の方へ直ぐに自分を持って行って考えることも出来た。あの冷い壁を見つめたぎり、身動きすることも、家のものと口を利くことも、二階から降りることすらも厭わしく思うように成った七年の生活の終りの方へ。あの光と、熱と、夢のない眠より外に願わしいことも無くなってしまったような懐疑の底の方へ。あの深夜に独り床上に坐して苦痛を苦痛と感ずる時こそ麻痺して自ら知らざる状態にあるよりはより多く生くる時であると考えたような自分の身のどんづまりの方へ。