Japanische Klassiker mit Furigana
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しんせい
新生
島崎 藤村
Lesen Sie 新生 (しんせい) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 334.815 Zeichen · 663 Bildschirme
九十二
四年の間自己の秘密を隠しに隠そうとした岸本の心にも、漸くその時に成ってある転機が萌して来た。暗い暗い心を抱いて遠く流浪の旅に上った日以来、いくらかでも彼が明るいところへ出て来たと思ったことは、二度あった。一度は、異郷の旅を行き尽して再び故国へと彼の心の向うように成った時だ。彼は赤い着物でも脱ぎ捨てるようにして、あの着古した旅の服を巴里の客舎に脱ぎ捨てて来た。当時の彼の心では、どうやら自分の一生の失敗も葬り得られたつもりであった。国に帰ることは、彼には赦されることであった。五十五日の船旅の後で、彼は夢寐にも忘れることの出来ない土を踏んだ。そうして自分の子供の側まで帰って来て見ると、未だ未だ彼は眼に見えない牢屋の中に自分を見つけた。彼は不幸な犠牲者が自分と同じ牢屋の中にあるのを発見した。彼が笑ったことの無い節子の心からの笑顔を見た日は、すくなくも明るいところへ出て来たと思った二度目の時であった。けれども彼の言うこと為すこと考えることは過去の行為に束縛せられて、何時でも最後には暗い秘密に行って衝き当った。彼は過去の罪過を償おうが為に苦しんでも、自分の虚偽を取除こうが為には今まで何事も努めなかったことに気がついた。