Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
「そりゃ、春か夏場のことで、こう寒ッくっちゃ、めったに道を廻って来るお方もございませんよ」
「ふーむ、そうか。実はその鮎川にいる知り人を訪ねて来たのだが、すると、もうその者もおらぬかも知れんな」
「なんと仰っしゃるお方でございますか」
「村上賛之丞という若い浪人だ」
「あ。男ぶりのいい、村上様という若い御浪人ならば……」
亭主が、図に乗った口を開きかけたかと思うと、うしろの荒物をならべてある店先で、何か、不意な物音がして、亭主は立った。
三五兵衛も、笠をとって、外へ出た。
やっと、温まった体へ、ヒューッと氷のような夕風がぶつけて来たので、笠の紐を噛みながら、思わず顔を横にすると、出て来た茶屋の掛戸の蔭に、チラと、年増らしい女のすがたが見えた。
「――いるな、村上賛之丞は」
三五兵衛は、そう思って、つぶやいた。
「鼻の先にいるものなら、しかたがないから行って見てやろうか。それに、春日平六の手前もある。……また、こうして手紙や餞別までよこされたものを」
薄い苦笑がその顔にのぼる。
衣にも耐えそうもない痩せた体を、急に寒気を加えた風が掠ッてゆく。空を見ると、氷柱の枝に星があった