Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
逃げろ、逃げろ、賛之丞!
汝を仇とつけ狙う、安成三五兵衛はここに来ているぞ! 今宵のうちに逃亡してゆけ、そして、また恟々と何処かで休まらない眠り場所と、落着けない生活を見つけておけ。やがてまた、この三五兵衛の影がそこへさすまで。八寒嘯がそこで鳴るまで。
逃げるがいいぞ。逃げるがいいぞ。村上賛之丞よ。驚け、あわてろ、逐電の支度をしろ。
――八寒嘯はそう鳴るのだった。
――三五兵衛はそう吹くのだった。
と、その笛に、何の空気の異を感じたか、彼はそろりと竹管をうしろに秘めたが、
「いるな。はて……?」
むくッと立つと、次の部屋へ身を運んだ。
そこで、彼は猫のように、じっと闇に静止していたが、その部屋の床寄りに、交い棚を略した押入れのあるのに目をとめて、それへ手がかかる途端に、サッと、襖の音――そして、どたりという重苦しい響きが一瞬。
おそろしい素迅さで、彼の手に引出されたのは、鮎川の乾分らしい男だった。――声を立てないのは、死んでいるのではなく、強く首の根を締めあげられているからで、
「く、くッ……」と、ただ眼を白くして、やがて、ぐんにゃりと三五兵衛の手を離れた。