Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
……なんだ、多寡の知れた」
お仙はちょっと、暗鬱になった。
治郎吉は、膳の盃にも手が出なかった。窓の肱掛へもたれて、女の憂鬱を慰める責任も感じないように、思案橋の往来をながめていた。
お仙は、いきなり、ヒステリックに男の膝に寄って、
「治郎吉さん」
「よせ。泣いてばかりいやがる」
「だって……だって……一日増しにおまえさんが、私に冷たくなって行くんだもの」
「へえ、いつおれが、おめえに熱かったことがある? 俺は、初めからこの通りだ」
「いいえ、違って来ています。このごろはもう、前みたいな、優しいことばなんか、薬にしたくも……」
「おいおい、てめえは一人で、何か、夢を見ているんじゃねえか。何も俺が誘拐したわけじゃあるめえし、嫌なら、いつでも帰るがいいぜ」
「その口が、私は、私は、口惜しい」
「何……てやんで」
治郎吉は、突っ放して、ことさら、錐のようなことばで、
「てめえは、熱病にかかっている。のべつ、あぶねえ風をくぐって、世間の裏をあるいているお尋ねもんが、いちいち、ねちねち、色恋にしろ、捏ね返しちゃいられるもんけえ、飽いたら、別れるまでのことよ」
窓がまちに、頬杖をのせて、東堀の水に、眼を落した。