Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
かつて自分が、国元で、不義をして捨てた女の兄――それは安成三五兵衛だった。
男に捨てられて勝手に死んだ女――娘が家名をけがしたといって切腹した父親――それを三五兵衛は、肉親のかたき、いや、自己の生涯をも葬った悪魔だと、おそろしく怨んで、自分をつけ狙っている。
その相手だ。しかも腕そのものが刃ものみたいに斬れる三五兵衛だ。賛之丞が、ふるえるのは、弱いのみでなく、無理はない。
だが、ふつうの人間と、少し変っている三五兵衛は、こうぶつかっても、自分を、すぐに殺さないことだけは、かれに分っていた。――なぜといえば、敵を憎む人間は討たずに生かしておくべきで、折あるごとに、恐怖と苦悶と人生の酸味をなめさせてやる方が敵討以上の敵討だといって、甲州の鮎川部屋で出会った時も、自分を討たずに自分の情婦のお稲を、力ずくで、奪って去ったような男であるから――。
(まず、命にかかわることは……)
と、賛之丞は、第一にこう考えて、気をしずめながら、
「安成か。よくも郡内では」
と、いいかけると、三五兵衛は、ひからびたような声を、編笠の蔭からもらして、
「どうした、その後は」
「なに」