Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
十二
手を曳いて、母子は、とぼとぼと田無の原をあるきだした。夜露が、あめのあとのようだった。
「いいあんばいに、月夜だから」
「すこしゃ、道が、見えるかい」
「まるで、この世でない所を、歩いているように見えるだよ。でも、田無の村の衆はこれから淋しがるだろうね」
「どうして」
「おまえの槌の音がしなくなるもの」
「なに、うるさくなくって、せいせいしたというだろうぜ」
と、百は笑ったが、何気なく、眼がそれたとたんに、はっと、息の音をしめつけるようなものを見た。
十二
ほのかな、月のいろを浴びて、田無の怪しげな家から、肩をならべて出てきた二人づれの影である。男は、わからないが、女はまぎれのないお稲である。
「こっちへ」
と、あわてて、母を横道へ誘って、半町ばかり、草の中を、むっそりと、黙り合ってあるいていたが、ふいに、
「おっ母、ちょっとここで、待っていてくんねえか。ひとりで、変な方角へ、歩き出しちゃいけねえぜ。すぐに帰って来るから」
と、おしげが、何かいう声をふりすてて、恐ろしい迅さで後ろへ駈け戻って行った。
ちょうど今、母子で通ってきた道を、二人の人影は、なまめかしく、より添って歩いてゆく。