Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
路地の闇
路地の闇
ちょうど、昨日と同じ黄昏ごろ、治郎吉はまた、宿の鈴木屋に、お仙と夕飯の膳をのこして、出かけて行った。
今朝、藍みじんの袷の襟に、白粉っぽい物がついていたので、お仙は、一日ふさいでいた。男が、軽くあしらえば扱うほど、女は焦れて、粘って、そして、錯覚に疲れた。
「こんな男だよ、俺は」
――出がけに、治郎吉がいった。
「いつまで、付いていたって、面白くもあるめえ、火鉢の抽斗に百両入れておいたからそいつを、兄貴にくれてやって、有馬へ帰るとも、身の振り方をつけるとも、いいようにしたらどうだ」
外に出ると、彼はすぐに、辻駕籠を呼んだ。
「――やってくれ、賑やかな所まで」
法善寺横丁で、いっぱい飲んで、治郎吉はすっかりいい気もち……。
道頓堀の人混みを縫う。
それからまた、ぶらぶらと、天王寺まで歩いて行った。お鉄漿長屋というのを聞いてその路地をのぞいてから、少し、酔がさめ加減だった。
暗い、狭い、どぶ板をふんではいると、突き当りに、藪があった。藪に添って、また長屋がある。
「ここだな」
角の竹窓から、そっと覗いてみると、奥に病人の寝床が見えた。煤けた行燈のわきに、自雷也床で見たあの娘が、枕元に、しょんぼりと、袂を噛んで、俯向いている。