Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
その代りに、約束して下さらぬか」
「何をですか」
「実はこの慎吾も、そなたに一度話したいことがある。だがいつも同僚どものいる屋敷では都合が悪いから、旧お陣屋跡にある家で一度会ってくれませんか」
「あそこは昔代官のお別荘で、今では、誰も住んでおりません」
「人が住んでいちゃ困るんだ。空屋敷だから落着けるので」
「そんなことをすれば、村の人が、何といって、取沙汰するか知れませぬ」
「分ってもかまわんでしょう。いずれ分ることになるそなたと拙者の間だもの」
肩に手をのせて、耳へ触れるように囁いた慎吾は、お芳が無反撥で俯向いているのを、征服的に覗いて、
「誓ったぞ。――じゃ今日は、無理をいわずに引っ返すとするからな」
と、お芳をそこに残して、すたすたと元の道へ帰って行ったが、少し先の雑木林をぐるりと廻ると畑の地境土手の蔭を歩いて、また元の七の家の横手へ戻って来た。
お芳の姿は、もう外には見えない。
代赭色の壁土と皮つきの丸太とで屋根低く建てられてあるそこの家は、住居というよりは仕事小屋であった。黄色い鼬草の花が咲きみだれている垣根をふみ跨ぐと、彼の足元から鶏の親と雛が両方へわかれて駈けた。