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Japanische Klassiker mit Furigana

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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme

Aozora Bunko

十三

蛇の目が一本、その上に渡してあった。

「有難え」

なんの気もなく、手に取って、ぱきんとひらいて身を隠した。ザザザザッと竹樋の水が、傘に落ちて、滝のように水玉の変化を見せる。

ひらめく電に、高社の山の肩がありありと二度ほど見えた。七はしばらく雲を見つめて、雨の小やみを待っていた。

やっと、雨の縞がすこし細くなったので、すっぽりと傘をかついで、池のようになった水の中に飛び出した。――すると、うしろの戸がガラリと開いた。

「おい、待て」

男の声である。すぐその後ろについて女の声がいった。

「いけませんよ、その傘をさして行っちゃあ」

声に覚えがあった。七の足は忿怒にふるえていた。さしている傘の耳を片手に抑えて、ばりばりッと引っ裂くように振り向けると、凄いほどあおざめた顔を、紺の円形の中から、グイと突きむけて雨戸の間に頬と頬を寄せ合っていた男女へいった。

「おぼえていろよ! 傘か、てめえ達ゃ濡れて帰れ!」

十三

姥捨と冠ヶ岳を右のほうに見ながら善光寺平を千曲川に沿って、二里ばかり上へ遡ると、山と山の間、すべてひろい河原地へ出る。

しいんとした薄暮のいろが低く水面に降りていた。