Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
十五
ことに彼等は、かつて見ない真の赤光に眼を射られて、茫然とわれを忘れていたが、疲れた網膜を、ふと足もとにやすめた時、ほとんどすべての者が同時に、
「大変だッ!」
と、われに返った。
慎吾の胴には、首がなかった。
――七はもうそこにいなかった。
十五
千曲川の暗い水面を、七は白い波影をあげて泳いでいた。
彼の向って行く丘に、夕方から潜んでいた人影のあるのを見て、こん夜の果し合いには、何か慎吾が卑劣な策をとるものと予期していた。そして、なすがままにさせて眺めていたのである。案の定、彼は暗闇まぎれに、自己の製作を七のものとすり替えた。
「さ。お芳の番だ」
七の眼は、蛇のように水から丘を見つつ抜手を切った。しかし、彼の影が丘へ近づくと、そこから一艘の小舟が急流に乗って下流へ離れた。
七もすぐ激流へからだをまかせた。舟はやがて、浅瀬の砂利に底を噛まれて、棹がきかなくなった。七はぬっと半身をあげて、じゃぶじゃぶと歩き出した。
――あっ。
七が声をあげた時、舟の中から女の影が水へ躍った。白い泡が絞り染のように浮いた。七はまた必死に泳いだ。
「死ぬぜ、死ぬぜ、おれの自由になっていねえと」