Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
二
だいぶ、間を措いてから、やはり不安でならないように、兵部は唐突に、
「誰か、見届けて来い」
と、いいつけた。
やがて、およそ半日も経って、やっと帰って来た家臣の口から、彼が、難なく町方のかこいを衝いて、一気に、板橋口から街道を北へ、立って行ったと聞いて、
「――そうか」
と、初めて、ほっと、脇息に、気づかれを、落して、
「人は使いよう……。一角も、こんどは胆に沁みて、立ち直ったとみえる」
頼もしげに、そしてまた、一つの心の負担をも、軽くしたように、呟いた。
二
春だが、寒かった。
山の襞には、雪が深い。
(四年ぶりだ――)
と、数えながら、一角は、笠のつばを上げて、板谷峠の上に立った。
そこから、米沢城下の町、川、橋、黒い天主、さまざまな思い出の一廓を見出すと、なつかしさ、などという常人のする感情は、すぐ消えて、
(しまッた。なぜ俺は、兵部の手に――)
と、いつか、屋根船に救われた夜と、同じ後悔を、ここでも、苦く繰返して、
「思えば、飛んでもねえ事を、頼まれてしまった」
と、呟いた。
自分では、摺り切れてしまったと思っていた武士根性が、まだ幾分か、どこかに潜んでいたかとも苦笑されて、