Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
五
蓑を、頭からかぶって、向う見ずに駈けてきた男が、どんと、胸いたへ肩をぶつけて来たと思うと、酉兵衛の脇差の柄へ、手を伸ばした。
「何をしやがる」
「かッ!」
蓑を刎ねた浪人者の顔を、酉兵衛は、あっと、一眼見たきりだった。ずばっ――と片手なぐりに、肋骨へ斬り下げられて、
「ウーム……」と、真ッ赤なものを吐く爬虫類みたいに、手も足も縮め込んで、雨の中を、転がった。
どぼうん――と大谷川に、飛沫が立った。
激流は、人間の血あぶらと、背なかだけを見せた丸っこい死骸とを、一瞬のまに、流して行った。
「しばらくだったなあ……」
一本のやぶれ傘の中で、男女は、笑い顔をながめ合って歩いた。雷光りが、絶えず、白い雨を見せて、睫毛のさきに閃いていた。
五
きょうまで、どんなに苦労をしたろう、探したろう、そして、寝る間も――というような事を、女は、雨も雷鳴も――濡れる冷たさも、うつつに、昂奮してしゃべった。
「金は」
一角は、お八重が、いい加減、言いくたびれるのを待って、
「――持って来たろうな」
「金なんか……。江戸へゆけば、思案の上で、どうにかなるでしょう。路銀さえあれば」と、帯を、ちらと覗いた。