Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
迷走・青い溝川
いくら馴れても、夜明けになると、しいんと冷えてくる。
牢番長屋の隅ッこにある、掘ッ立て便所へ通うたびに、蔵六は、番茶みたいに濁った自分の小便を見た。
「どうしたろう、彼奴め……うう寒」
と、菖蒲革の番太袴に、ワラ草履を引きずって、二月の別れ霜が、うすく降りているドブ板を浮き足に踏んで戻ると、もう杉の森に、鴉が、があがあと騒いでいる。
「あっ……夜が。畜生め、畜生め、義賊の何のといっても、やっぱり、悪党は悪党。ああいけねえ!」
ほの赤い、朝暁け雲を仰いで、蔵六は、頭が、くらくらとなった。――どんと、牢格子に背中をもたせかけて、
「ウーム……」と、絶望的に唸った。
すると、
「おやじどん、お早よう」
「えっ?」
蔵六は、きょろッとして、
「その声は、雲霧じゃねえか。――どこに、何処にいるんだ」
「あっしの居場所は、ここよりほかにゃねえ。牢の中に、帰っていますよ」
「ははあ……」
蔵六は、茫然としたが、ハッと気がついたように、慌てて錠をピンとかけた。
「何時の間に?」
「たった今。――だが金は、何しろ、五重の塔から降ろすので、一度にゃ、持ち出せねえ。ゆうべ二十両だけ、おめえの家の窓から抛り込んでおいたから、帰ったら、戸袋へ、手を突っ込んでみなせえ」