Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
彼も人の子である以上、当然な、愛情の本能からも、また、後天的な大盗の誇りからも、ぜひ、その悪行の痕だけは、この世から拭い消して置かねばならぬと思った。
「さだめし、俺を、恨んでいるだろう。――せめて死ぬ前に、手をついて、娘へは詫びの一言、父なし子の顔も一目」
こう考えて、ゆうべも来たが、盗みになら鉄壁も越えるが、さて煩悩の塀は越え難い。
わん! わん!
雲霧は、はっと振り向いた。
「畜生ッ」
と、拳を振り上げると、橋の袂へ痩犬が腹で土を摺って逃げてゆく。
「あら怖い」
「今のうち――」
手をつないだ座敷着の妓たちが褄を高くあげて彼の前を通りすぎた。万八楼の小提灯が、遅く帰宅る料理番の老人を、とぼとぼと河岸づたいに送って行く。
「そうだ、夜明けまでの体、愚図愚図しちゃいられねえ」
代地河岸の砂利場へ潜んで、しばらく、様子を窺っていた雲霧は、やがて、権内の家の裏塀を越えて、何の苦もなく、忍びこんだ。
土蔵付きの母屋が、八間か九間、家は広いが、吝ン坊な権内は、ろくに雇人も使っていない。雲霧は、がたっともいわせず、風呂場からぬっと這入ると、手拭で顔をつつみ、袷の裾を横に端折りあげた。