Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
久米一生涯の神品も、今はどうなったか計られない。百助はそれを眺めてニタッ……と嘲笑った。
その時、不意に百助の後ろへ、黒い人影がソッと立った。
「おや?」
と、感づいて、ふり顧った彼の真っ向!
颯然と、蛍を砕いたような光が飛んだ。あッといった時は、それが剣であったとみる眼も眩んで、窯焚きの百助、額を抑えて、ダッ――と跳びのき、満面朱になって、
「うウ! ……だ、誰だッ」
唇に流れこむ血を吹いて喚いた。
青白い剣の尖は、それに何の答えも与えず、なおスルスルと追い詰めてきた。百助は必死になって、よろよろと逃げ廻ったが、また一人、飛鳥のごとく駈け寄った影が、抱きすくめた彼の脇腹へグザと短剣の切ッ尖をえぐった。
「おお、火が消える」
相手が斃れたと思うと、それには眼もくれないで、二人の影がかいがいしく窯の前に働きだした。
お薪山から伐りだした松薪の山を崩して、それを掴むと、火口を屹と覗いた若者。
「ええッ」
気合をかけてポーンと投げ込んだ。
「ええッ」とまたすぐに次の一本、また一本。今にも絶えなんとしていた火の命! 甦ったかの如く赫々と燃え上がってあたりは光明昼のごとく真っ赤に照った。