Japanische Klassiker mit Furigana
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パンドラのはこ
パンドラの匣
Lesen Sie パンドラの匣 (パンドラのはこ) von Dazai Osamu (太宰 治) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 192.644 Zeichen · 386 Bildschirme
僕は、足を拭いてもらいながら竹さんの肩に手を置いて、
「竹さん、これからも、甘えさせてや。」とわざと竹さんみたいな関西訛りで言ってみた。
「お淋しいやろなあ。」と竹さんは少しも笑わず、ひとりごとのように小声で言って、「さ、これ貸したげるさかいな、早く御不浄へ行って来て、おやすみ。」
竹さんは自分のはいているスリッパを脱いで僕のほうにそろえて差し出した。
「ありがとう。」平気なふうを装ってスリッパをはき、「僕は寝呆けたのかしら。」
「御不浄に起きたのと違うの?」竹さんは、またせっせと床板の拭き掃除をはじめて、おとなびた口調で言った。
「そうなんだけど。」
まさか、窓の外に女の顔が見えた、なんて馬鹿らしい事は言えない。自分の心が濁っていたから、あんな幻影も見えたのだろう。いやらしい空想に胸をおどらせて、はだしで廊下へ飛び出して来た自分の姿を、あさましく、恥かしく思った。毎日こんな真暗い頃に起きて余念なく黙々と拭き掃除している人もあるのに。
僕は、壁によりかかって、なおもしばらく竹さんの働く姿を眺めて、つくづく人生の厳粛を知らされた。健康とは、こんな姿のものであろうと思った。