Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
「そうだろう。てめえの前の情夫――村上賛之丞も、この音をきくと、身ぶるいをしたものだ。てめえが、嫌うのもむりはねえ」
「あなたは、鬼みたいな人だ、鬼、鬼……」
「そうだ、鬼よりも血が冷たかろう。孤独な人間は、こうなるのが当りまえ。――それも、原因はといえば、賛之丞のためだった。美貌で陰険な、あの賛之丞のやつが、おれの妹を惑わして、おれの屋敷をみだしさえしなければ――」
と、もう遠い過去になる追憶に、ふと、つよい憎悪と、恨みを、ひとみに焚いて、
「妹も死なぬ。父も死にはせなかった。従って、この安成三五兵衛も、当りまえな扶持取ぐらしに当りまえな人間の月日を国元で安穏にすごしていたにちげえねえ。――それを、旅から旅へ、垢の落ちねえ浪人ごろ、好きな笛を糧にして、きょうは秩父、あすは御嶽と、宮祭の笛吹きにまで身を落してこう妙に拗てしまったのも、持って生れた根性ばかりではない。あいつのためだ。賛之丞がまいた種だ」
「じゃなぜ、お前さんは、鮎川部屋であの人に会った時、敵なら、敵といって、討ってしまわなかったんですか」
と、お稲は、詰問するような、するどいことばで、
「それを、それを……」