Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
今夜のうちに、その工面を、どうかしなければ、旅籠からぼろの出る惧れがある。――だが、いくら詰っても、江戸の鼠が、上方でケチな仕事をしたとは人にいわれたくない。
女に気まぐれで、仕事に見栄坊な治郎吉だった。彼が好んで、大名の屋敷にはいるのは土蔵の現金と、閨房の上淫がのぞかれるからであった。武家、旗本の屋敷を選んでいるのは、比較的そういう階級の方が、町家の家庭よりは、生活がみだれているし、権門を恃んで、かえって彼等に、不用心が多いからである。
何かそれを、武家階級に反抗する特殊な思想的泥棒のように、ふしぎと、世間の人気は盗まれた方へ寄らないで、盗む鼠の方を礼讚しはじめたので、治郎吉はすっかり、自分の職業に信仰をもってしまった。女と、ばくちの費い残りを、貧民街に少しばかり撒くと、たちまち、義賊という名が、鼠の肩書に、位階のように名づけられても来るし……。
だが、その江戸を食い詰めて上方落ちを極めてからは、華やかな悪運も、そういう目ばかりは出なかった。人相書こそ廻っているが、江戸で仕事をするほど、反響はない。鼠の人気も、無論なかった。
なければこそ、悠々と、宵の町を、ふところ手で歩けるのだけれども、それもまた、治郎吉には淋しかった。