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Japanische Klassiker mit Furigana

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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme

Aozora Bunko

「そちの仕官中に、国許で、一、二度見かけた事がある。腕のたつ武士と、噂をきいていたが、いつの間にか、此方の在府中に出奔したという事じゃった」

「この姿で、お目にかかったのが、残念にござります。どうぞ、御慈悲をもって、このまま、お見遁しを」

「見遁せとは」

「何事も、お訊ねなく。――犬でも助けたと思し召て」

「卑下いたすな。若い時代の過ちは、生涯の評価にはならぬ。その慚愧をなぜ有為な身に、すぐれた腕に、鞭とせぬか」

「立ち直って、身を固めたいと念じながら、持ったが病、自暴から自暴へ、持ちくずした身の傷は、癒るどころか、殖えるばかりで、今後のことも今となって、その冷っこい川風の中で考えてみると……」

「それや、無理もない。惰性というもの、そこに、転機が来なければの」

兵部は、つぶやいて、酒瓶のくびを抓んだ。一角へ、杯を与えて、

「ひとつ、飲まんか」

「恐れいります。御大身のお酌では」

「あとも、燗銅壺についておる。では、そちの手酌にまかせて」と、膳ぐるみ、押しやって、

「――だがの一角、もうこの辺が、考え所ではないかの。人間も年三十に近いとなれば」

炬燵ぶとんへ、兵部は、顔を横に当てて、うつうつと、何か考え込んでいるふう。