Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
「あっ! ……お父さん」
飛びついて、無我夢中に抱えこんだ時には、もう、父に呼吸はなかった。温い、むず痒い、虫のように生きてる液体が、どこからともなく噴き出して、彼女の手に、膝に、ふとんに、気の遠くなるほど溢れた。
「血だッ」
彼女は死骸と共に、倒れながら、初めて大きな声でさけんだ。
「――来てくださいッ。御近所の方。父が殺されました。父がッ……父が」
血のなかに、お喜乃は、泣き転んでいた。
そして、夜が明けてみると、二包の金はなかった。
× × ×
「金が子を生む? 金が子を生んだ」
店を、下剃の松にまかせて、仁吉は、独りで二階に上がっていた。
両方の掌に、百両包を、一つずつ乗せて腹ン這いに寝ころびながら、猫が鞠を弄ぶように、
「ふしぎだ、金が子を生んだ」
と、呟いている。
「たしかに、一包の金が半夜のうちに二包に化けていやがるから、ちょっと、呆れてものがいえねえ」
包のこばを、歯で破って小判の山吹色をのぞいたり、目量を手で計ってみたり、独りで、首をかしげ、錯覚を起し、そして、妙な幸運さに、陶酔をしている。
ぎしっと、梯子に跫音がしたので、彼は、あわてて、金を、欄間の額のうらへ隠した。