Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
鋸屑だらけな髷が、そッくり返っている。二寸ほど鞘辷りしている大刀の刀身も、賭場で、勝負をしてしまったのか、あわれにも、竹である。
「態あねえな」
職人たちは、べっと、唾をして、鉋に腕の縒をかけ初めた。
「おう、何をしているんだお八重、はやく来ねえか」
向う側の参道並木――杉や燈籠で鬱蒼として、人影は見えないが、胴間声で、こう呶鳴っている者がある。
板小屋の横をのぞいた女の顔が、それへ、あわてながら、
「はい、今すぐに――」と、答えながら、一角の寝すがたへ、何か、結んだ紙片らしいのを、抛りつけて、ばたばたと連れの方へ、駈けて行った。
ひら、ひら、と白い結び文は、鉋屑といっしょに舞っていた。
今、眼をさましたのか、寝ているはずの一角の眼は、赤く濁った眼を開いて、じっとそれを見ているのだった。今、通りすぎた男女の足数でも心に測っているように。
やがて。
むっくりと起きて、それを拾った。読むとすぐ、裂いて、袂に突っこみながら、
「ああ、喉が渇いた」
と、まだ幾分か、宿酔の眼まいを感じるらしく、ふら、ふら、と御手洗の方へあるいて行った。
風が、山をうごかしてきた。