Japanische Klassiker mit Furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lesen Sie 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 178.609 Zeichen · 362 Bildschirme
彼はそう思って、通りすぎるはずの甲府に滞在して二十日ばかり平六の家へ通っていた。――するとある日、
「吉事があった。欣ばれい」
彼の顔を見ると、笛の稽古はそッちのけで、待っていたように、平六がこう告げた。
「郡内の長脇差で、鮎川の仁介というものがある。この甲州では有名な博奕うちでな、その、身内どもが、先ごろ御岳へ参った時に、見たという者の話だが……」
平六は急に気がついたように、丸窓や襖のすきを閉めて、三五兵衛の前に腰をまげて坐った。
「――三五兵衛殿のさがしている仇の名、たしか、村上賛之丞とか言ったな。そして、年ごろはお手前より若く、顔つきも、失礼じゃが、そこもとよりはぐッと男ぶりが好いという話で……」
「いかにも、美男子でございますが」
「そいつがな、その賛之丞が、どうやら鮎川の身内の世話になっているらしいという噂なのじゃ。早速、出向いてみたらどうでござるの」
平六は非常な熱心で言った。
いつか、根ほり葉ほり訊かれた時に、やむなく、仇の輪廓だけを洩らしたことがあるが、平六はそれに案外な好奇をもって、また、三五兵衛をよろこばそうという親切気もあって、知人の間に、それとなく、似寄りの人間がいたら知らしてくれと、頼んでおいたらしい口吻である。