Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

Lisez 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 173 309 caractères · 352 écrans

Aozora Bunko

「狂女めっ!」

若党が、横から、突きとばした。

わっと、倒れた途端に泣いた女の声は、生涯、耳から消えまいと思われるような叫びだった。

すぐ、橋のそばの番屋から、人が駈けて来たので、幸いと、伝右衛門が駒をすすめると、絹を裂くような声が、後ろで聞えた。そして、何者かが、前へ廻って、伝右衛門の駒の口輪を、がきっと抑えた。

「何するッ」

「わしじゃっ」

見ると、同僚で、同じ接伴役の林兵六である。

「伝右殿、すぐ引っ返せっ」

「やっ、御上使か」

「とうとう来たっ」

「あっ……今日……今日」

伝右衛門は、夢中で、鞭を振った。

すでに、十七士の部屋は、静かだった。最後の食事をすまし、各※(二の字点、1-2-22)、越中守の贈り物、自の小袖に、浅黄無垢の裃をつけ、足袋、帯などつけているところなのである。

伝右衛門は、詰所と、そこと、廊下と、また上使と検使役のひかえ間とのあいだを、うろうろしていた。

「いけない! 見苦しい」

自制して、詰所で、がぶがぶ水をのんだ。

前日、予告があった代りに、上使が来ると急だった。もっとも、人数が多い。黄昏前に、終らなければならぬ。

越中守も、ひそかに、お成りだ。