Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

Lisez 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 173 309 caractères · 352 écrans

Aozora Bunko

三河の松平家は、今では駿河の属国になっているが、三河武士がみなよく貧苦に耐え、胆を嘗め薪に臥して、時勢の変るのを待っているから、十年先には、どう変るか知れないとか。

諸国の武将のはなし、兵法のことでも、訊かれれば、知らないという事はない。

「ふくぞ。こいつが」

と、初めは皆、小馬鹿にしながら聞いているうち、何かしら、猿の持っている信念というようなものが、皆の身に沁みて来て、時には感心し、時には笑い、時には怒って、

「猿。おめえは、何でもねえ罪だから、打首になるはずはねえが、成るべく長くここにいてくれ」

冗談にも、猿が出て行ってしまったら、どんなに淋しくなるだろうと、その日を惧れるくらいになった。

そして何かといえば、

「猿。猿」

と、彼を取巻いて、話を求めた。――毎日、高い切窓から射す僅かな陽なたの切れ端と同じように、彼を囲み、彼のことばに随喜した。

それとまた、何よりここの変って来た事は、陰気な牢内が、いつのまにか陽気になって来た事だった。猿はよほど陽気な性とみえ、どんなに皆が陰気になろうとしても、猿の声がしだすと、そこに笑い声が起った。いや黙って坐っているだけでも、猿の姿を見ると、陽気が漂って、自ら皆の顔まで明るくなった。