Classiques japonais avec furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Lisez 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 231 525 caractères · 463 écrans
……それだけだ、お通さんにも、おばばから伝えておいてくれや」
そういい終ると、
「ああ、これで気がすんだ」
武蔵は、すぐ木剣を杖について、暗い戸外へもどりかけた。
「武蔵」
お杉は呼びとめた。
「汝れ、これから、何処へゆく気じゃ?」
「おれか」
沈痛に――
「おれは、これから、日名倉の木戸をぶち破って、姉上を奪りかえすのだ。そのまま、他国へ走るから、おばばとも、もう会えん。……ただ、ここの息子を、戦で死なして、おれ一人、帰って来たのではないということを、この家の者と、お通さんに告げたかったのだ。もう、村には、未練はない」
「そうか……」
紙燭を持ちかえて、お杉は、手招ぎした。
「おぬしは、腹がすいてはおらぬのか」
「飯など、幾日も、食べたことはない」
「不愍な……。ちょうど、温かいものが煮えている。何ぞ、餞別もしてやりたい。ばばが支度するあいだ、湯でも浴みていやい」
「…………」
「のう、武蔵、おぬしの家と、わしが家とは、赤松以来の共に旧家じゃ、わかれが惜しい、そうして行かっしゃれ」
「…………」
武蔵は、肱を曲げて、眼を拭った。ふいに温かい人情にふれたので、猜疑と警戒心だけに張りつめていたものが、急に人間の肌を思いだしたのであった。