Classiques japonais avec furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Lisez 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 231 525 caractères · 463 écrans
鶯
一
そして次に、石を追って、飛びこんだ。
井戸の底から仰ぐように、星が遠くなった。武蔵は濠の底の雑草へ、どかんと仰向けに寝ころんだ。一刻ほどもじっとしていた。
肋骨が大きな波を打つ。
肺も心臓も、そうしている間にやっと常態を整えてくる。
「お通……。お通が、この小柳生城にいるわけはないが? ……」
汗は冷え、肺は落ち着いて来ても、乱麻のように掻きみだれた気持は容易に平調にならなかった。
「心の曇りだ、耳のせいだ」
そうも思い、
「いや、人の流転はわからぬものゆえ、ひょっとしたら、やはりお通がいるのかも知れない」
彼は、お通のひとみを、星の空にえがいてみた。
いや彼女の眼や唇は、敢て、虚空にえがいてみるまでもなく、常に無自覚に武蔵の胸に住んでいるのだった。
甘い幻想が、ふと彼をつつむ。
国境の峠で彼女のいったことば、
(あなたの他に、私にとって男性はありません。あなたこそ、ほんとの男性、私はあなたがなくては生きられない)
また、花田橋のたもとで彼女のいったことば――
(ここで、九百日も立っていました。あなたが来るまで)
なお、あの時いった――
(もし来なければ、十年でも二十年でも、白髪になっても、ここの橋の袂に待っているつもりでした。