Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

Lisez 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 173 309 caractères · 352 écrans

Aozora Bunko

具足や太刀の響きが、たちまち、消えて行った。

「誰もいない。用をいえ」

「急……急の大変を……お知らせに駈けつけました」

「そちは、誰の家来だ」

「明智殿の側近う仕えて来た者でござります」

「名は……?」

「柾木孫平治と申しまする」

「……?」

わしも、うかといったが、まさか猿殿におかれても、二十余年前にたった一度聞いた獄人の名などを、記憶しておられるはずはなかろうと思っていた。

と――猿殿は、手の軍扇を、少しあげて、わしの顔をさしまねき、

「上がれ」

「は……?」

「階段を上がって来い。ゆるす。もそっと側へ来い」

わしが、恟々と、お脚元間近まで、はい上がってゆくと、びしゃりと、猿殿はわしの背中を鉄扇で一つ叩いていわれた。

「……牢頭」

「えっ」

「なぜもっと早く訪ねて来なかったのだ」

「……あッ。で、では手前の事をまだ、お覚えで……」

「あんな事は、生涯にも何度とはない。覚えておる。そしてその折、一度はきっと会うといったそちが――生れ変って出たか、死んだか――気にかけておった」

「か、かたじけのうござりまするっ」

わしは、廻廊へ額いて、咽び泣いてしまった。

「その後、明智殿へ随身して来たか」