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さんまいつづき

三枚続

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1900(明治33)年8月9日~9月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,572 字 · 124 页

青空文庫

三十

「口の端を拭け、泡だらけだ。」

三十

愛吉は仇気なく平手で唇を横に扱いたが、すがめて掌を打眺め、

「嘘、泡なんぞ附着いてやしねえ。」

と例の愛くるしい口を結んで眉根を寄せ、吐息をついて歎息した。

「ほんとうに考えて見りゃ夢の様ですよ。

お夏さんは酌をしておくんなさる気で瓶を持ちながら、ふと雛の壇を見ましたがね、どうなすったんだか、おや! といってこう、瞳を据えて、瞬もしないでしばらく。

枕についても目をぱっちり、お雛様の番をして、すやすやと寐息に簪の花は動いても、飾った雛は鼠一疋がたりともさせないんでございますってね、過年もお雛様が皆で話をするッて、真面目に言いなすったことがある位、凝ってるんだから魂が入ってましょう。

トその凝視めていなすったッけ、ちょいとお囃子の人形が笛を落した、まあ、鼓を打棄った、まあ、まあ、まあ、太鼓の撥を、あれ緋の袴が動くんだよ。あれ、皆! とお夏さんがすっくり立った。

顔を見合せて皆呼吸を呑みましたわ。

その様子ッたら、まるで雛がどっと惣立ちになったように、私等が胸に響いたんです。」

語る時、十有数日の間を蒸しに蒸した、人類の汗を絞り抜いた、一昨日来の気圧は、正にその極所に達したと見えて、陰々たる中にものの響、柱がきしむようである。