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さんまいつづき
三枚続
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1900(明治33)年8月9日~9月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 63,572 字 · 124 页
三十八
」
「大勢でか、ちと変だな。」
「何さ、対手がどうというんじゃあないが、一人や二人ではさすがに話しにくいて。」
「気の毒なり、可哀相でもあり、」
「まあ、何にしろ困ったものだ、今夜にも宵啼が留みさえすりゃ、ああもこうもないんだけれど、留まなきゃあ、事のねえ内よ、気の毒だが仕方がねえ。」
風はさらさらと軒を渡って、ああ、柳屋で鶏が鳴く。
三十八
「蔵人、蔵人。」
涼しい声で、たしなめるように呼懸けながら、店の左手に飾った硝子戸の本箱に附着けて、正面から見えるよう、雑誌、新版、絵草紙、花骨牌などを取交ぜてならべた壇の蔭に、ただ一人居たお夏は、小さな帳場格子の内から衝と浴衣の装で立つと斉しく、取着に箪笥のほのめく次の間の隔の葭簀を蓮葉にすらりと引開けて、ずっと入ると暗くて涼しそうな中へ、姿は消えたが、やがて向直ってつかつかと店へ出た、乳のあたりにその胸を置かせて、翼に手をかけ抱いたのは、お夏が撰んで名をつけた、蔵人という飼鶏である。
「何故今時分啼くんだね、」と人にものを謂うような、されば宵の一声にお夏が忙わしく立ったのは、あたかも寐かしつけた嬰児が、求めて泣出すのに、嫁がその乳房を齎らすがごとき趣であった。