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ひかりはかげを

光は影を

岸田 国士

彼を待つもの「キング 第二十六巻第四号」1950(昭和25)年4月1日、はるかなる青春「キング 第二十六巻第五号」1950(昭和25)年5月1日、〔欠題〕「キング 第二十六巻第六号」1950(昭和25)年6月1日、兄の立場「キング 第二十六巻第七号」1950(昭和25)年7月1日、ある少女の役割「キング 第二十六巻第八号」1950(昭和25)年8月1日、父の孤独「キング 第二十六巻第九号」1950(昭和25)年9月1日、愛と死と生の戯れ「キング 第二十六巻第十号」1950(昭和25)年10月1日、運命に逆うもの「キング 第二十六巻第十一号」1950(昭和25)年11月1日、変転の外に「キング 第二十六巻第十二号」1950(昭和25)年12月1日、この日あるがために「キング 第二十七巻第一号」1951(昭和26)年1月1日、二つの未来図「キング 第二十七巻第二号」1951(昭和26)年2月1日、希望の羽ばたき「キング 第二十七巻第三号」1951(昭和26)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,262 字 · 276 页

青空文庫

その代り、こいつを金にしてくれ。いくらに踏むか、おじさん」

彼が、胴巻から取り出したのは、金無垢と一と目でわかる女の腕環であつた。

「これや、なんや。ようでけとるけど、鍍金やな」

「よせやい、じいさん、ふざけないで、早くしろよ。買うのか、買わないのか」

「いくらやつたら、よろしおまつか?」

「目方をかけたらすぐわかるじやないか。二十八匁きつかりだ。三万ならいゝだろう」

古着屋の唇がヒョットコのように伸び、

「よろしおま、信用しときまひよ」

京野等志は、一時間後に、出張先から帰る一会社員の風体に早変りをした。実をいうと、彼は、鹿児島へ上陸するとすぐに、復員局の事務所で荻窪の家の処番地が変つていないことだけをたしかめておいて、早速、リュック・サックにつめたろくでもない品物を一切売り払つた。収容所を出る時、時計も万年筆も捲きあげられ、いよいよ乗船の間ぎわに、サイゴンの桟橋へ駈けつけて来たポーレットが、別れの挨拶をしに頬を差出したとたん、飛行靴の胴へ手早く落し込んだのが、この金の腕環で、その時は、なんの意味ともわからず、たゞ紀念にというほどの感傷を、あの黒くうるんだ瞳のなかに読んだきりであつた。