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ひかりはかげを

光は影を

岸田 国士

彼を待つもの「キング 第二十六巻第四号」1950(昭和25)年4月1日、はるかなる青春「キング 第二十六巻第五号」1950(昭和25)年5月1日、〔欠題〕「キング 第二十六巻第六号」1950(昭和25)年6月1日、兄の立場「キング 第二十六巻第七号」1950(昭和25)年7月1日、ある少女の役割「キング 第二十六巻第八号」1950(昭和25)年8月1日、父の孤独「キング 第二十六巻第九号」1950(昭和25)年9月1日、愛と死と生の戯れ「キング 第二十六巻第十号」1950(昭和25)年10月1日、運命に逆うもの「キング 第二十六巻第十一号」1950(昭和25)年11月1日、変転の外に「キング 第二十六巻第十二号」1950(昭和25)年12月1日、この日あるがために「キング 第二十七巻第一号」1951(昭和26)年1月1日、二つの未来図「キング 第二十七巻第二号」1951(昭和26)年2月1日、希望の羽ばたき「キング 第二十七巻第三号」1951(昭和26)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,262 字 · 276 页

青空文庫

四

もちろん、彼は、それをとがめる気もせず、そんな権利はどこにもないことを知つていた。おそらく縁あつて他家へ嫁いだか、かねて苦にしていた胸の病が高じたか、それとも、戦乱の渦にのまれた犠牲の一人になつたか、そのいずれかと彼はひとりできめてしまい、また相逢う日があろうなど、望んでもいなかつたくらいである。

しかし、それとこれとは別である。彼は、高円寺駅のすぐ手前の踏切を左に折れ、杉ノ木口の方へ、通りなれた道を、そらで詩を口吟むように、からだに調子をつけて、ぶらぶらと歩いて行つた。

以前のまゝの門構えの二階家、以前のまゝの門標、たゞ、「味岡」と白木へ書いた墨の字が、彼のじつと据えた眼の中へ、生々しく飛び込んだ。

「あゝ」

と、彼は、心の中で、意味もなく呟いた。なにが、「あゝ」なのか。彼女の顔が、かつて、のぞき、彼女の影が、かつて、映つていた二階の張出し窓は、雨戸が固く閉じられ、やがて朝日の射すであろう白々とした障子さえ、今は、見るすべもないのである。それは、なんの想像もゆるさず、なんの気配も感じさせない、一切を彼と彼女から隔てる時と空間の象徴であつた。

四

阿佐ヶ谷まで、また、電車線路を伝つて歩いた。