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ひかりはかげを

光は影を

岸田 国士

彼を待つもの「キング 第二十六巻第四号」1950(昭和25)年4月1日、はるかなる青春「キング 第二十六巻第五号」1950(昭和25)年5月1日、〔欠題〕「キング 第二十六巻第六号」1950(昭和25)年6月1日、兄の立場「キング 第二十六巻第七号」1950(昭和25)年7月1日、ある少女の役割「キング 第二十六巻第八号」1950(昭和25)年8月1日、父の孤独「キング 第二十六巻第九号」1950(昭和25)年9月1日、愛と死と生の戯れ「キング 第二十六巻第十号」1950(昭和25)年10月1日、運命に逆うもの「キング 第二十六巻第十一号」1950(昭和25)年11月1日、変転の外に「キング 第二十六巻第十二号」1950(昭和25)年12月1日、この日あるがために「キング 第二十七巻第一号」1951(昭和26)年1月1日、二つの未来図「キング 第二十七巻第二号」1951(昭和26)年2月1日、希望の羽ばたき「キング 第二十七巻第三号」1951(昭和26)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 138,262 字 · 276 页

青空文庫

三

「勘定払いな」

「それだけじや足りないか」

ちらとテーブルの上を見て、

「いくらおいたんだ」

と、女にたずねた。女は、紙幣をつかむと、ろくに数えてもみずに、

「ダメなんだよ。これで夜つぴて飲ませろだから、いゝ気なもんさ。その外套でもおいてかせるんだね」

「外套ぬぎな」

と、男は、けだるそうに言つた。

京野等志は、思わず拳を握りしめた。その種の威嚇を反射的にはね返そうというよりも、みすみす暴力に屈しようとする自分のすがたに憤りを感じたからである。が、彼は、踏み止まつた。それを正当づけるなんの根拠もなかつたけれど、たゞ、いずれにしても、ぶざまなことはおなじだと、肚をきめて、ゆつくり外套を脱ぎすてた。

三

京野等志は、もう人ッ気のない青梅街道を冷たい夜風に吹かれながら、すたすたと歩いた。

足が宙に浮き、皮膚がじかに物にふれず、どつちを向いても言葉の通じぬような不安にふと襲われた。もちろん、酒のせいも手伝つてはいようが、彼は、自分の精神と感覚がこれほど鋭く研ぎすまされた状態を、これまで一度も経験したことはないように思つた。

彼は、たゞ、無意識にわが家の方向に向つて道を急いでいるのである。