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ちからもち

力餅

島崎 藤村

「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页

青空文庫

九 桃

冬が長ければ長いだけ、春から秋へかけては活動の時期ですから、そこから「おつかれ」のような佐久ことばも生まれてきたのでしょう。こうした土地に住み慣れてみれば、黄ばんだほおずきちょうちんを空に掛けたような名月までが、「おつかれ」と言って、遠い森の上へ登って行くように見えますよ。

九 桃

桃について、かつてわたしは次のようなことばを書きつけてみたことがあります。

五月の菖蒲が男の子にふさわしいように、桃の花はおのずから少女にふさわしい。長い花ぶさをうなだれ、花べんの胸をひろげて、物思いに沈んだような海棠のすがたは、とうてい少女のものではありません。茶色で、やや赤みを帯びた枝の素生に堅くつけたあの桃のつぼみこそ少女のものです。二尺にも三尺にも及ぶほど勢いこんで延びてきているようなその素生を見たばかりでも、おい先こもる少女の命を思わせるものがあります。素朴にふくらんだところはかわやなぎの趣に似て、もっと恥を含み、しかもおとめらしい誇りをみせているものは桃のつぼみです。

これはおもに花のことを言ったのですが、桃は実になってからもいい。皆さんは桃の生っている木のまわりを歩いたことがありますか。