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ちからもち
力餅
島崎 藤村
「力餅」研究社、1940(昭和15)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 65,974 字 · 130 页
二 かぶをつける家
それまでただの一度でも郷里へ帰ろうなぞと思ったことのないわたしでしたが、明治学院へはいって、諸国から学びに来ているほかの青年たちを見るにつけ、いろいろ思いあたることもあったのです。いつのまにか自分の性質が人にもまれて、ひねくれたほうにばかり向かうように思われ、もっと素直に自分を伸ばしたいと気がついたからです。一年ばかりも学校を休んで、郷里のほうにいる母のそばに暮らしてみたい、そんなことを吉村のおじさんの前に言い出したこともありました。その時、おじさんから、お前もばかなやつだ、今が勉強ざかりのたいせつな時ではないかと言って、笑われてしまいましたっけ。
二 かぶをつける家
いろいろのことを思い出したのも、その時でした。
わたしの郷里は木曾のような山里でしたから、毎年かぶのとれるころになりますと、わたしの家でも母やあによめがたすきがけに手ぬぐいをかぶり、じいやだの下女だのを相手に赤い色のかぶをつけました。そうして野菜をたくわえることがわが家での年中行事の一つのようになっていました。ふるさとのほうのことというと、家のものがつけ物小屋に集まっているありさまが胸に浮かんできました。